モノ語りヒト語り

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金の草鞋(ワラジ)を履いて探したものは

お客様に声を掛けられて少々困ってしまう言葉は、いくつかありますが、そのうちのひとつが「何かいいもの入ってる?」です。

もちろん、日々、少しずつ新しいものは入荷していますが、全てが自信を持って「これ!入りました!!」と大きな声でお見せ出来るとは限りません。

Aさんにとって、とても魅力ある品物も、Bさんにとっては余り興味のないものである可能性も大きいのです。

『えーと、Aさんのお好みは、はんなり系の優しげな色で…』と頭のなかで検索しながら思い出すというアナログな作業を繰り返しても、的確なお返事が出来ないことも多々ありますます。

あ、これは「きものコーナー」での話としてお読みください。

売り場で、シドロモドロになっている担当を見かけたら、そういう状況なのだなあ、と温かい目で見守っていただけるとうれしいです。

とはいえ、Aさんも、Bさんも、Cさんでさえも興味ありというスーパースターがいます。それは本結城と呼ばれる重要無形文化財の結城紬です。

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普段、小紋や訪問着などの「やわらかもの」をメインにお召しになっている人でも結城紬には心動かされ、紬好きな人にはかなりの人気です。

それを証明するかのように、先日入荷した百山亀甲、八十山亀甲の七点あっという間に売り切れとなりました。藍色、紫色の総絣は空気を含んだ真綿糸の柔らかさが伝わってくるしなやかさ。畳んでいる時の手触りがなんとも言えず、長く触れていたい感じです。他の紬と「畳み心地」が明らかに違うのです。

「こんなものが入りましたよ」と自信をもって出せるものほど、滞留時間が短いのは、うれしくもあり、寂しくもあり。今後も、良い結城紬を常に在庫できるように、がんばって集めたいものです。

実は、ダイヤモンド級の結城紬がその日のうちに、売り切れとなった理由は他にもあります。お気づきのことと思いますが、最近きものスタッフが一人増えて、古株の私と新人Mと二人体制になりました。売り場の畳スペースはキモノを試着する場所ですが、プチ変身コーナーでもあり、着付け上手なMは、畳の主となって大活躍です。

先日も、常連のお客様がきものを試着されていた時の一幕。

「この柄、私にはちょっと大きいかしら。こういう柄は背の高い人しか似合わないと思うんだけど…」

「ちょっと試着してみますか?実際に羽織ってみると、置いて見ているのとは違いますよ」と、Mは全部言い終わるより先に、お客様に腰紐をシュッと巻いています。

ピシっとおはしょりが整えられ、伊達締めを軽く締めると、あら不思議。彼女の手にかかると、女優さんのようなキモノ姿が鏡に映っています。

「!?あらやだ~!意外といいじゃない!あなた着せるの上手ねー。」

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私の手にかかれば…

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真剣です。

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華麗な手さばき。高速過ぎて画像がブレています。

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決まっております。

「柄は大きさではなくて、似合うかどうかですね~」というMの直球なセリフも着付けの綺麗さに説得力倍増です。こういう時、古株としては、よけいな口出しせずに横でニコニコと眺めています。

「着せ方が上手だと、自分でもすてきに見えてくるから不思議よね~。」と鏡に写るご自分の姿にうれしい驚きの声。

その時、横にいる私に気がついたお客様。

「あっ!Oさんだっていつも綺麗に着せてくれるわよ!」

心優しいお気遣い、ありがとうございます。

ともあれ、長きにわたって探していた、きものスタッフが着付けのプロで、愛嬌があるなんて、奇跡に近い出来事です。

金の草鞋を履いて、金太鼓(カネタイコ)で探した甲斐がありました。

最後に、二人でお買取りに出かける車中、ハンドルをにぎるMの性格が少しだけ変わることは、ここだけの話にしておきます。

(担当O)

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