明がらすと岩谷堂
堅物の息子を少し柔らかくしたいと、悪友におやじが頼みこむ。二人の悪友はお稲荷さんのお籠もりだと騙し吉原に連れ出す。お籠もりに必要なお賽銭をたっぷり持って三人が出掛ける。お巫女の家と称した茶屋から早々に見世に送り込まれると、どんな堅物でもここが何処だかわかる。店一番の花魁を前に堅物の若旦那は慌てて逃げ出そうとするが「大門には見張りがいて、勝手に出ようとすると袋叩きにされますよ」と悪友に脅され、泣く泣く花魁と一夜を共にする羽目に・・・
翌朝、悪友は遊女に振られて朝を迎えたが、若旦那は花魁の魅力にすっかり骨抜きにされて床の中。一方の花魁も、時次郎のあまりにうぶなところが気に入ってしまい、初見から惚れ込んで離さないという始末。「帰りましょうや」という二人の悪友に、「帰れるものなら、帰ってごらん。大門で袋叩きにされるよ」。
八代目文楽が得意にしていた落語「明烏(あけがらす)」である。
ここにあるのは、一体何が入っているのか分からない菓子「明がらす」。スタッフの一人がもってきてくれた旅行のおみやげだが誰も封を切らない。その名前の妙さと包装のレトロぶりに見入っているらしい。デザインもさることながら、左から右に流れる文字並びは戦前のママである。
「明がらす」はくるみやごまを使った岩手県遠野のお菓子で一般家庭でも作っているものらしい。これは明治元年以来130年の歴史がある松林堂の菓子である。その名前の由来はお菓子を切り分けた時に断面に現れるクルミの形がカラスが飛ぶ姿に似ており、夜明けのカラスは縁起がいいということから名付けられたとのこと。(一方、明け方に鳴くカラス、夜明け烏は男女の交情の夢を破る、つれないものの例としても使われている)
補注 申し訳ありません。すでに食べてしまってその断面図の写真はございません。
もう一つのなかなか封が切られないおみやげはこの重々しい岩谷堂羊羹である。「これは食べられるのか?」と岩谷堂箪笥を買い取ったスタッフ。相当に硬い印象がにじみ出ている。
毎日、レジ前にある七段の岩谷堂箪笥の前を通って事務所にいくわけで、否が応でも「岩谷堂」はスタッフに刷り込まれている。そこにこの岩谷堂羊羹である。早速お茶受けに、とはならない気分も理解できる。
この硬くて重そうな岩谷堂羊羹と岩谷堂箪笥とどちらが風格があるのか、箪笥の上に羊羹を置いてみた。
小さいながら、羊羹も箪笥に負けてはいない。48万円の羊羹と言われても動じない風格がある。
で、味はどうか。
「お菓子博士」と言われているスタッフのO(2013年に開催された全国菓子大博覧会を見るために広島まで出かけたほどのエキスパート)によれば「それほど甘くなく程よく硬く(岩谷堂)」「素朴なモチモチ感(明がらす)」で、2つとも「合格」とのこと。めでたし、めでたし。
補注 「くらしのくら」では岩谷堂階段箪笥は扱っておりますが、岩谷堂羊羹は扱っておりませんので悪しからず。