畳の洋式送別会
当店スタッフが辞めることになった。一人は配偶者が病気になりその介護のために、二人は放射能を避けて西日本に転居するためである。
三人とも5年ほどの間、一緒に仕事をしてきた仲間だっただけに、出来ればとどまって欲しいと思うものの、理由が理由だけに無理は言えない。特に1歳前後の子供を抱えた二人の母親は、東京といえどもその放射能の影響に敏感にならざるを得ない気持ちはよく理解できる。情報の全面開示をしない上に、どこまで心配すればいいのか、個人にその責を負わせている政府の責任は重い。
近くのうなぎ屋で合同送別会をした。普段は飲み屋とか、お好み焼屋でやるのだが、少しでも気分を晴らしたいスタッフの思惑であろう、すこし贅沢な会となった。 2階の畳敷きの部屋は昔と異なり、座卓は無くなりテーブルと椅子でしつらえてあった。「良かった、椅子で」とつぶやいたスタッフが一名。もう足腰があちこち痛い年齢になったということである。
このお店でも「畳に座って食べたり飲んだりするのは、辛い」というお客様からの声があって入れ替えたのであろう。置いてあるダイニングテーブルセットはごく普通の4人掛けのセットである。このテーブルにしてみれば、まさか畳の上に置かれるとは思っていなかった筈であるが・・・・・・・・・・・
それにしても、畳にダイニングテーブルというのは、文明開化の時代を思わせる雰囲気である。思い出したのが、数年前に「くらしのくら」で販売した日本楽器社製(ヤマハ楽器の前身)が作った「山葉文化椅子」五点セット(大正末期から昭和初期の製造と思われる)である。
椅子の脚は畳を傷つけないようになっており、日本人の座高に合った小振りの椅子と高さも抑えられたテーブルは、正に畳に置かれることが大前提の和洋折衷、日本間に合った小振りの美品であった。更に日本人好みというか、ヤマハらしいというかコンパクトに折りたたむこともできる。背もたれと座面は帆布でできていて古臭さを全然感じさせない逸品である。お買い取りした椅子の帆布はヨレヨレで全部交換して販売した記憶がある。 (「山葉文化椅子」はレプリカ販売でもあっという間に売り切れて今は入手できないらしい)
その時代、高貴な家庭ではこのような家具で西洋の「文化」を実感することになったのであろうか。今や、このような家具を必要としないほど、家自体が西洋化してしまった。和洋折衷どころか、日本の畳は絶滅の危機にあるといっていい。
椅子に座っての「うなぎ」は美味しかったが、畳に座って膝つき合わせる会話のほうが盛り上がるなあ、と思うのは「畳を知っている絶滅危惧種」の年寄りだけなのだろうか。