モノ語りヒト語り

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ご苦労様!桐箪笥

五十年以上使った桐箪笥を買い取って欲しい、という電話があった。お母様の代から使ってきたものらしい。

下町の趣のある平屋建ての玄関を入ると、六畳間に溶け込むようにそれは鎮座していた。角には鏡台、そして文机が並んでいる。桐の厚みは七分(約2センチ)あるが、その歴史をあらわすように全体が黒くやけている。飾りの無い取手、背板は当然ではあるが割れている。再販は難しい。手彫りの取手が付いた総桐の箪笥や会津桐などは別なのだが、単に古いだけの桐箪笥を求めるお客様はいないのである。

「そうだよね、洗えば新品同様になるというのは分かるんだけれど、この年では今から何年も使えるわけでもないしね。娘も要らないっていうんだよ」
 
子供が生まれた時に桐を植えて、お嫁入りの時には成長した桐材で箪笥を一棹作ったという習わしは「今は昔」である。古い桐箪笥ほど、このリユースの世界で評価されない家具はない。家具のオークションでも、10年以上経過した普通の桐箪笥は厄介者である。

だが、この目の前にある桐箪笥はおばあさんからすればゴミではない。私たちはそのモノとの関係ではなくモノとしての評価しかできない。そのギャップは埋めようがないのである。

搬出の手数料をいただいて、お引き取りをすることになった。ゆっくりと傷つけないように運び出す。玄関を出て、トラックを置いた車道まで30メートルはあろうか、人がやっとすれ違える程の細い道を男二人で手運びする。車道に出て振り返ると、おばあさんが玄関口から半身をせり出して私たちを見送っていた。

私たちではなくこの桐箪笥を・・・・・・・・・・・・・・・

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