一級直言建築士
大きなナップザックを片方の肩に背負って、長身の彼は体をかがむようにしてやってくる。そして店の中をしみじみと眺めるのだ。そのスタイルはリフォーム前にも後にも変わらない。
「一寸いいですか、このガラスのショーケースの下の縁と外のガラスウインドウーの縁と高さをあわせたほうが歩いている人から見るときっときれいに見えると思うんですよ。」
なるほど確かにそうである。私たちはお買い取りをした店舗用品を自分たちでも使用するので、おのずと背丈も幅もばらばらのディスプレイの棚が並ぶことになる。それをどうすれば形良く見せられるか・・・・・余り考えたことが無いことを彼は淡々と指摘するのだ。
「彼」とは今回のきものコーナーリフォームを設計してくれた建築家の石井大五さんである。
最初に店を見に来てくれた時、「なぜ天井の照明がアチコチないんですか。」余りに明るすぎて照明を間引いていたのである。「お客さんにとっては球が切れたのに放置しているビンボーくさい店にしか見えないんじゃないんですか」うーっ(その通りで返事に窮する)。
その単刀直入、歯に衣着せぬ物言いに私は惚れたのだった。リフォーム設計の仕事に入ってからもデパートの和服売り場や大手リサイクルショップのきもの売り場を探索に行っては、疑問をぶつけてくる。それは思っても口に出さないお客様の苦言に思えるのだった。
今回のリフォームは予算も限られ、彼の思い描いたプランの半分も実現できなかったが。きものコーナーは狭いけれども広く感じさせる広縁、低い上がり框、無垢と合板を巧みに組み合わせて、高価な素材は使っていないが高級感を出すための工夫がある。
それともう一つ。バックヤードとの仕切り壁の上部に高さ60センチ、長さ8メートル弱のミラーを取り付けた石井さんのプランは派手な見栄えはしないが、店の奥行きを自然に感じさせる効果があって、私たちのお気に入りリニューアルである。
リニューアルが終わっても、石井さんはまだまだ、直言を惜しまない。
「あのー、きものの裄サイズ表は。黄色より茶のほうが棚に合うと思いますよ。あ、それと棚板の厚さよりはみ出ているのはカッコ悪いから同じ幅にしたほが・・・・・きものの棚の一番上に帯の箱をたくさん重ねないで、低めに、数を少なくしたほうが・・・・・こっちの棚には抹茶茶碗を一客ポンと置いたらどうなんでしょう。それと{staff only}という表示、どうしても英語でないといけないんですか。和のイメージに合わないと思うんですが・・・」
勿論、これらの意見は全部取り入れて変えてみる。いい。
ただ、品物が増えていくといつかまた、ごちゃごちゃ並べたくなる衝動を抑えられなくなるだろうけど。今後も月に一度はチェックに来ていただきたい大歓迎「直言居士」である。
尚、石井さんの建築事務所のホームページは下記なので遊びに行ってください。
事務所 フューチャースケープ建築設計事務所
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