ほこり高き男たち
とにかく咳が止まらない。花粉ではない。積年のほこりのためである。
70坪ほどの家の中にあるものを全部処分したいので見てくれ、というご依頼であった。住んでいた方は他界し、その長男ご夫妻が家屋を売却することになったとのこと。
ご夫妻と一緒に居間、食堂、書斎、寝室などを見て、家具、小物の買い取りをする。生活をなさっていた部屋はなんともないのだが、八畳の納戸の中にあるダンボール箱やトランク類は厚みが分かるほどの埃が全体にかかっている。何が入っているかは、当のご夫妻も分からないという状態である。
中を見るために一つ一つ棚から降ろし箱を開けていくのだが、下ろす度に体全体に霧のようにダストが降りかかる。ほこりなのだが照明の筋に浮かび上がる粉末はダストというのがふさわしい。マスクを用意はしているのだが、「立ち会っていただいているお客様が何もつけていないのに、私たちが防護するわけにはいかない・・・」などと粋がらなければよかったのにと、今思っても後の祭りである。
出来るなら呼吸したくない、せめて吐くだけで吸うのをやめたい!・・・・・
こういう買い取りは何が出るか分からないだけに蔵出し(旧家の蔵を取り壊す際などに蔵に入っていた荷物一切を買い受けること)と同じような緊張感やらトキメキ感があるものである。が、数ミリはある積年の時間の証は容赦なく空中に舞い、呼吸のたびに喉にはり付くのだからその「ドキドキ感」が高まってはむせり、むせっては高まるの繰り返しである。
でも、真っ黒に酸化したマッピン&ウェブの銀食器(写真)や30年ほど前の大倉陶園のコーヒーフルセットなど出てくると、フーッと息を呑む。ゴホッ、ゴホッ・・・その品々は何十年ぶりに人目に触れたかと思うと息は更に深くなるというものである。
この繰り返しで3時間の苦闘は終わった。ほこりを拭いた何枚もの雑巾もさぞ驚いたことであろう。もっと驚いたのは、20年か30年ぶりに人間様に触れられ、見定められた品々なのかもしれないが・・・・・・
「太陽が、ま、まぶしい…」