モノ語りヒト語り

「モノ語りヒト語り」一覧へ

新しい出発

熱かった分冷めるのも早かったのか、彼女は私を置いて去っていった。残された彼の私を見る眼も、少しうつろになってきたような気がする。あの頃はもう戻らない。それは、ヒトもモノも同じ。

ある日、私は部屋から運び出された。これで三度目の転居?である。

「あのーコレもお願いします」私を指差して彼は言った。
「うーん、小ぶりでいいんだけど、少し汚れがねえ」
「でも、きれいでしょう?」
「そうだね、ウチではこういうの扱わないんだけど、わざわざ持って来てくれたから500円でいい?」
「・・・・・これ、思い出があって、余り売りたくないんで・・・・もう少し」
「むずかしいなあ」
「・・・・」
「何でそんなにこだわるの?」
「思い出が・・・・」
「別れた女の子の?」
「・・・・・二人で買った思い出の・・・」
「ウチの店にはね、男と別れた女の子が男の子に貰った指輪やネックレスを持ってくることが多いのね。でも、殆どの人が<これでスッキリ>と帰っていくよ。もう彼女は戻ってこないんだろう?」
「うん」
「だったらあきらめてスパッっと処分しなよ、ダイヤじゃないんだから」
「はい、お願いします」
「じゃ、激励分を上乗せして1000円にしておくよ」

という訳で、私は評価倍増、2度目の店頭展示となった。

初回はモチロンピカピカで、渋谷のコジャレな専門店でディスプレイされた。小さなワゴンは他の豪華な家具に囲まれても引けを取らない魅力があったようである。

人気者であった。手をつないだままの若い二人が私を見つめ、選んでくれたのが最初のオーナー(たち)との出会いである。

落ち着いた先は、狭い、暗い、汚いの三拍子揃った部屋。だが、若いカップルはそんなものを吹き飛ばすような熱気に満ちていた。ポットの輪染みができれば、汗を噴き出しながらきれいに拭いてくれたのは彼女である。

そんな若い二人と甘い生活をともにして2年。今はバスの排気ガスをまともに喰らいながらの毎日である。(「くらしのくら」はバス通りに面しショーウインドウの車道側に家具等が展示されている)白はその美しさを保つのがとても難しい。でも、人の目を引くのも事実である。

それから、1週間後、私はもう一生手離されることの無いであろう初老のご婦人の元に行くことになった。

20020529

さよなら、思い出の二人。
新しいそれぞれの出発に乾杯!
私もセカンドライフである。

「モノ語りヒト語り」一覧へ

お気軽に
ご相談ください

くらしのくらや買取に関して皆様よりいただく質問をQ&A形式でご紹介しています。

よくあるご質問

小さなことでも
遠慮なくご連絡ください