黒総皮張りソファー
それにしても9,800円てぇのはあんまりだ。ちぃとは、腕というか肘掛というかその辺が擦り切れているとはいえ、本皮だよ。今風に言えば《オールレザー》っていう代物(シロモン)だ。しかもだよ、「十分に使えます」ってぇウリ(POP)が気にいらねえな。一見使えねえモンを、そう言うんじゃねえかい?
え?オレ何モンかって? 肱掛椅子2脚+椅子2脚の【黒総革張り4人がけソファーのセット】さ。
思えば家具屋さんから大井町の小さな美容室に迎えられて10年、何と多くのご婦人方の休息スペースとして役に立ってきたことか。きゃしゃな女性からグラマラスな女性、うら若い娘から熟女まで、オレの女性体験といったらそんじょそこらのプレーボーイの比じゃないんだって!もっともご婦人方はオレのことを気にも留めないんだけどね。まあ、そんなことを気にせずゆったり出来るってぇとこが、オレのうりよ。
しかし時の流れに逆らずか、モダンなチェアーと交替。「くらしのくら」に引き取られてきた、っていう訳。
「ちょっとスペース取り過ぎるなぁ、しばらく外へ置くか」
おいおいオレは夏は冷房、冬は暖房のしっかり効いた部屋にしかいたことないんだぜ!ここのスタッフは何考えてるんだでも昔通りの風格は出そうにも出せないな。
外へ出されて5日目。学生風の若い兄ちゃんがオレをじーっと見つめたね。うん、オレというより9,800円の値札かな。嬉しいような哀しいような・・・・。今から残り少ない人生・・いやモノ人生をこの兄ちゃんと二人きりで過ごしていくのかな・・・。うん、でも解体されていった仲間のことを考えるとそれもひとつのモノ人生だな。いってくるぜ。
ん?それにしてもオレの写真がないって?!