モノ語りヒト語り

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童謡を唄うアメリカ人

元イギリス外交官のお嬢様Rさんとは7年来の長いつきあいである。お買い上げ頂いた商品は多岐にわたり、部屋を飾っているものの多くは当店で選ばれたものである。「もう部屋に入らないのではないか」というスタッフの心配もよそにエレクトーンのお買い上げとなった。配送にお伺いすると、いつも、お部屋に飾ってあるお若い時の写真(グレースケリーもかくほどではあるまい)に感嘆である。

そんなRさんが紹介して下さったのが歌手のグレッグ・アーウインさんである。アンティークが好きな彼の知り合いで、古いモノを持っている外国人の家に何軒かお邪魔してお買い取りをしている。彼が歌手であることは知っていたが、実際に歌を聞いたことは無い。先日、映画に使われた童謡を歌う会をやるとのメールが届いた。

会場は銀座、ドアを開けてびっくり。フロアは普通のリビングの大きさで、目と鼻の先にマイクとエレクトーン。サイドテーブルにワイン。参会者は9人。ホームパーティ形式だったのだ。だったら、もっとまともな格好で出て来たのに、と悔いてもしょうがない。みんなが集まったところで開演。司会もやっているだけあって、グレッグ(以下敬称略)の話はサダマサシの巧みな話芸に匹敵するほど面白い。最初に歌ってくれたのが「ふるさと」。

何年前に聞いたのが最後だったのか、最後に歌ったのはいつごろだったろうか、思い出せない位の昔だ。

2012年の今、この歌を聞くと、詩が心の奥に染みわたり身体が震えて来る。

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兎追いし 彼の山
小鮒釣りし 彼の川
夢は今も 巡りて
忘れ難き故郷

如何にいます 父母
恙無しや 友垣
雨に風に つけても
思ひ出づる 故郷

志を 果たして
いつの日にか 帰らん
山は靑き 故郷
水は淸き 故郷

(大正3年 作詞 高野辰之 作曲 岡野貞一)
(平成10年映画「友情」 和泉聖治監督 三船美佳初主演)
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そのあと、「浜辺のうた」「七つの子」。日本語と彼の訳による英語で交互に歌う。190センチもあるアメリカ人が自らを「童謡の伝道師」と称し、大正時代に作られた童謡を歌い、それを日本人が聞くという、えも言われぬ空間。

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あした浜辺を さまよえば
昔のことぞ しのばるる
風の音よ 雲のさまよ
寄する波も 貝の色も

(大正5年 作詞 林古渓 作曲 成田為三)
(昭和29年 映画「二十四の瞳」 木下惠介監督 高峰秀子主演)
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NHKでグレッグは「あした」を英語で「tomorrow」と歌ったところ、すぐファックスが入った。「翻訳が間違っている、あしたは明日のことではない、朝のことを言う」と。今や「あした」を「朝」の意で使うことはほとんど無くなったわけで、グレッグの誤訳は誰も責めることができない。

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烏 なぜ啼くの
烏は山に
可愛い七つの 子があるからよ

(大正10年 作詞 野口雨情 作曲 元居長世)
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「七つの子」を「seven’s little babies」と訳したら、これにもすぐ「七つの子は七羽ではない、七才の女の子」とファックスが。NHKのリスナーは学識豊かな上に、反応が素早いのだ。(「七つの子」の解釈には諸説あって、調べるととても面白い)。

これらの詩はパソコン上では「文法の間違い」として赤線で警告される。「君(パソコン)が間違っているんだよ」。と言っても始まらない。この美しい詩をパソコンが認めることは、今後ないように、このような美しい童謡もまた、学校で歌われていく事はないだろう。

今の子供達が触れている音楽の世界とはあまりに違いすぎる。でも、ときに触れるのはいいものだ。その時の風景とその時代の志を、都会の子供達にも想像して欲しい。童謡から即座に風景をよみがえさせる事ができる中年世代のみなず・・・

童謡を唄うアメリカ人

この童謡の風景をつないでいくためにも、歌い続ける「童謡の伝道師」グレッグ・アーウインに拍手!!

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