これでもホンマのアンティーク
およそ100年ぶりだろうか。陽が眩しいこと!蔵自体がほこりだらけというのに、アッシの扱いときたらいわばゴミ扱い。中には三ツ矢サイダーの空き瓶やら欠けた茶碗まで、放り込まれたまま壁際の奥に押し込まれていたのだから。人権(箱権?)蹂躙というものだ。2階の小窓から僅かな風が入りこむだけ。そんな深い暗闇で過ごしてきたアッシが100年ぶりに蔵の外へ出されたのだ。
ようやく年月を経た価値が見出されたのだろうか。それにしても、アッシだけ骨董を扱うような丁寧な運び方でないのが気にかかる。外にはこの蔵の主であろうご夫妻と小学生の娘さん、中学生の息子さん。蔵を取り壊してアパートを建てるらしい。アッシを引っ張り出したのは白マスクに軍手姿のおじさん(引き取りに来た店の店長らしい)と若い衆だ。でも、皆の視線は漆器の入ったオカモチだ。
うーん、さすがにアッシとその出来映えが違う。オカモチには、多少ケガをしているとはいえ漆椀やら盆やらぎっしりと詰まっているようである。我が身といえば素材は杉板。ビンビールの運搬用ケースである。どう見ても、アッシの負け。又蔵へ戻されるのか、ハタマタここで解体されてしまうのか。
さて、おおむねの食器類がトラックに運びこまれた後、アッシにチラッと目をやった店長「これも積もう」と若い衆に声を掛けた。ホントにアッシの価値、分かってくれてるのかね。
高速道路を走ること4時間。アッシは世田谷というトウキョウの住宅地にある店に連れて行かれた。いるいる、昔の仲間の鉄瓶やら火鉢などが。成る程、ここで陽のあたる場所へお出ましということなんだ・・・・と思いきや、アッシだけは店のバックヤードへ転がされてしまった。エッまたここで何十年と過ごすことになるのか・・・。前と較べれば明るいし埃もないし、良しとするか・・・。
数日後、「いやあ、面白いものが入ったんですよ」と店長の声が聞こえ、アッシはサッサッと埃を払われレジに置かれた。そこには菊川さんというレトロのものが大好きらしいお客さんが。菊川さんの目がアッシを見てキラキラしている。ほらね、分かる人は分かるんです!
「くれ!これ」
結論も言葉もシンプル。格好イイ!そのあと・・・・。アッシは風呂に入れられブラシをかけられ、クリアラッカーを全身に塗られもう昔の面影どこにもありまへん。
どうです?この気品ある恵比寿様の焼き版。記念写真をよーく見てくださいな。
どこでも買えるという訳ではない珍品ですよ。アッシは。本当は入浴前の写真があればもっと感動してもらえたんですが、ここの店長どうもタイミングが悪いらしい。
という訳で今やご主人様に丁寧に扱われ毎日のように見つめられている幸せな毎日送っております。
同じ蔵の仲間たちの幸運を祈る!
〈1890年(明治23年)恵比寿ビール販売開始。1900年(明治33年)4月14日パリ万国博覧会開〉