指輪物語 〜リ・ユースのすすめ〜
若い女性からダイヤリングの新品仕上げの依頼があった。最近結婚した相手の母上からプレゼントされたが、全体にキズがあるのできれいにして欲しいとのこと。新品仕上げをするとほとんどの汚れやキズが消えて、新品当時の輝きを取り戻すことが出来る。
私たちの店で取り扱っている貴金属のチェックやサイズ直しなどを担当していただいている石井宝飾に依頼した。
「これは昔のリングだね。千本透かしといって、今はこういう作り方をやれる職人はいなくなったよ」と懐かしそうに手に取る。
大正時代はごく普通に作られていたらしい。デラ枠といって宝石が小さくてもデザインでデラックスに見えて人気があったという。昭和50年頃になってキャスト(型)で作ることが出来るファッションリングが大量生産されるようになって、急速にすたれていったとのこと。
「これは1本1本細いカナ鋸で切っていくんだよ、指先でこの隙間の見当をつけて櫛状にした後、ロー付けをして仕上げるから、半日くらいかかるかな」と、銀のフレームを木の土台に食い込ませてやおら切り始めた。
相当の集中力と手先の器用さが無いと難しいのがよく分かる。大量生産によって様々なモノが安く手に入るようなったのはうれしいことだが、このリングのように貴重な技術が消え去っていく代償もまた引き受けなければならない。
正直言って、最初にこのリングを見たときに「ちょっと古臭いかな」と思ったのだが、話を聞いて改めて見てみると「人の手がかかった凄さ」を感じるのである。
数日後、美しく仕上がったリングは持ち主のもとに返っていった。勿論、「千本透かし」について石井さんに聞いたとおり講釈したのは言うまでも無い。話を聞いた女性のうれしそうな顔を見ると、このリングは大事に扱われるに違いない。
親から子へ、こうやって使われていく「リ・ユース」は「リ・サイクル」と共にもっと広げていきたいものである。
追)石井良一さんは昭和23年生まれの57才。この宝石の道30年の大ベテランである。貴金属のデザイン、製作からリペアの仕事の傍ら、彫金の教室で技術の指導も行っている。
貴金属のリフォーム、リペアなどについてのご相談は直接石井宝飾までお問い合わせ下さい。(くらしのくらでもお取次ぎいたします)
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