加賀友禅作家はチャーミング
その工房は金沢市の犀川と浅野川に挟まれた住宅街の一角にありました。加賀友禅作家 毎田健治先生の「毎田染画工房」です。加賀友禅のギャラリーで緊張の面持ちで待っていると、「どうも。よくいらっしゃいました。」とカーディガン姿の穏やかなおじさまが迎えてくれました。資料の写真で拝見していた、毎田先生その人です。
「挨拶代わりにこれを見てもらおうかな」と、 師であり、お父様でもある毎田仁郎氏と、ご 本人の紹介ビデオを見せていただきました。
京都で発達した友禅染めが加賀に伝わり、武家社会という環境のもと、写実を追及した独自の作風と技法が確立した経緯、毎田仁郎氏、健治氏お二人の作品の数々を堪能したところで、ふたたび毎田氏登場。
「いきなり現実的な話ですが、伝統産業は厳しい時代です。伝統だけでは存続が難しく、商品や流通などの開発がとても重要になっています。ありがたいことに、輪島塗、九谷焼、加賀友禅は後継者に困ることはなく、若い人ががんばっています。」と、厳しい現実と明るい側面とをお聞きするうちに、
「あぁ、そういえば、余談ですが、今度この工房がドラ マに出るんですよ」
「サスペンスもので、たしか○○刑事(でか)って言ったかな。仕事場で撮影して行きましたよ。」と、おっしゃるではないですか。
一同「えぇーーっ!」
意外な反応に、先生も「??」
というのも我が「くらしのくら」も件の「○○ 刑事(でか)」のロケ現場候補として打診を受けていたのでした(実現はしませんでしたが)。それをお伝えすると、「ほんとかね!?奇遇ですなあー。」と満面の笑み。
きもので繋がった細い赤い糸を感じつつ、その後はとてもフランクに仕事場の中まで案内していただきました。
広い仕事場では物音一つせず、お弟子さんがそれぞれ担当の工程、「糊置きする、色を挿す」などの作業に集中していました。
「これが、友禅の工程です。見本があるか らやってみますか?」。
先生の声に、一同興 味深々。染め抜きの白い線を出すための「糊置き」の工程に使う、糊を細く搾り出す道具で線を引いてみると、指先の微妙な加減ひとつで細くかすれたり、ボテっと出てしまったり と、うまくできません。加賀友禅独特の「先暈し」という技法は、染めの筆を斜めにカットしてあるものを使 います。
先生は、おもむろに曲線を描きながら「長いほうに少ーし染料を付けて、スーっと引くと、ほーら、こうなります。」と言いつつ、にっこりと
「ナイスバディでしょ。」
一同、意表を衝かれて仕事場に不謹慎なほどの爆笑です。ほんとうに、「ナイスバディ」な曲線です。お弟子さん方、騒々しくてすみませんでした。それもこれも、毎田先生が、あまりにチャーミングなせいです。
普段は厳しい指導と仕事の毎日だと推察しますが、こんな一面も合わせ持っている、愛される作家、それが毎田健治先生なのですね。
(文責OM)
下記にて毎田建治先生の作品が展示されます。
『源氏物語』―七姫を染め織る展―
4/28(土)~5/8(火) 5/2(水)休み
11:00~19:00 入場無料
銀座 ミキモト本店6F ミキモトホール