モノ語りヒト語り

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お客様は先生です

お客様は神様ではなく、先生であると言ってよい。

なかでも、Tさんは象牙、シルバー、金属などの材質から歴史まで幅広い知識をお持ちで、何度となく相談に乗っていただいている。

スタッフが「包丁を買いたいんですよ」と料理が得意なTさんに相談したことからスタッフ向け「包丁講座」を開くことになった。

定休日のある日、Tさんが数本の包丁と、資料を持ってご来店。包丁の由来から種類、材質、その特性(切れ味、耐久性)にいたるまで多岐にわたる話を伺った。

当店には試験はないが、レポート提出が必須である。講義の内容を紹介するよりもそのレポートが一番分かりやすいのではないかと思い、その一部を掲載することにした。

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我が家から砥石が姿を消したのはいつだったのかと記憶をたどると、たぶん私が中学生か高校生のころのように思う。

母が「切れなくなってきたわ」と言うと、「どれ…」、と父が砥石を取り出し、流しで研ぎはじめる。「シャーコ、シャーコ」と、わたしには聞こえていて、その音が聴こえてくると、後ろから覗き込み、包丁の刃が少しだけ光を取り戻すようすを眺めていた。昭和の家庭の平和な日常…。

今回、包丁に関するいろいろな知識を学びながら、少しの間、ノスタルジックな気分にひたっていた。

肝心の知識に戻ると、日常の道具なのにあまりにも知らないことを再確認した。料理や、素材によって形、大きさが違うことは、なんとなく知ってはいたが、鋼の材料、握りの種類、作り方の違いなど、さまざまな要素が組み合わされてできていることが分かった。

刃物屋に並ぶ包丁が、同じに見えるものもたくさんあって、なぜあんなに多くの種類があるのかという不思議が解けた思いだ。

一方、日常的に使うのは女性が多いのに、包丁を語り、究めていくのは男性が多いというのもおもしろいと思う。刀やカスタムナイフなど、およそ女性には理解しがたい世界の入り口が包丁なのかもしれない。

Tさんは、持ってきていただいた包丁を説明しながら、「これは失敗したんだよ。高い勉強代だ」とおっしゃり、何事も失敗しながら深めていくことも教えてくださった。

我が家の包丁は、あらためて見てみると、どんな素材を使った刃かもわからず、柄は欠け、もはや包丁と呼べないしろものになっている。これを機に、新調すべきなのだろうと思いつつ、手になじんだ包丁をまだ使っている。

 (文責OM)

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