続くときは続く
続く時は続くものである。ある有名な海外メーカーのスタンドライトをお買取し、店頭に出した。ちょうどAさんからそのリクエストがあったところである。しばらくして、Aさんがご来店、飾る間もなくのご売却成立となったのだが・・・・・・・・。
それから1週間、お引き渡し日になってもAさんと連絡がとれない。何せ、圧倒的な存在感のある照明である。当店の入り口から、その偉容が目に入る。「売れてしまったの?キャンセルになったら欲しい」というオーダーが入る。嬉しいことなのだが、一つのお品物にオーダーが集中する展開は不安を呼び起こす。今までの経験から、キャンセル待ちが増えていくと、売却の確実性が高まるどころかドミノ現象が起きる可能性が高いのである。
モノが欲しいと思う欲求は順番待ちで高まり、キャンセルによって現実として選択を迫られるとしぼんでしまうものらしい。高額な商品は特にその傾向が強いようである。
ラーメン屋であれば、時間さえ待てばその欲求はみたされるが、リユース商品は基本的に1点モノである。今回のデザイナーズ家電のようにそう簡単にお買取があるわけでもなく、安いものでもなく、次から次へとその欲求に応えていけるわけではない。このスタンドは工業生産品だから数多くあるのだが、ニーズが多いために買取価格も高止まりしており、次は何時手に入るか私たちにも分からないのである。そのうち、ウェイティングは3件となった。
さて、そのAさんは電話通じず、お宅にお伺いしてもご不在。いくら期限を切っていたとはいえ、こちらからキャンセルするわけにもいかない。ここでキャンセルとなれば、ドミノの第一歩が・・・・・・。
更に1週間後、「ごめんね。ちょっと韓国に旅行に行っていたのよ」その頃、ウオン安で日本人の買い物旅行が盛んだった。「今ね、運び方を研究しているの。日本の代理店に搬入の方法を聞いているので、もう少し待ってくれる?」このスタンドは大きな曲線のデザインでアームの中に電源コードが内蔵されているため、分解するのも手間がかかる。かといってベースは60キロもある大理石である。簡単に持ち上がるほど軽くない。分解、組み立て、搬入にコストがかかるのである。その負担を少なくしたいというのがAさんの考えらしい。
更に10日後。「運び込むのは相当たいへんらしいのよ、そのコスト考えるとねえ」とキャンセル。ついにドミノか・・・・・
ご売却のことなのに、次のお客様に連絡するのは気が重い。キャンセルが出て、お客様にお売りすることができました」「よかった、待ってたのよ」ということは少ないのだ。お待たせしている間に他店で決まってしまったり、気分がだんだん醒めてきたり、と、時間の経過というのは様々な影響をおよぼしているのである。
すぐキャンセル待ちのBさんに電話。こういうときはなかなか電話が通じない。何日かしてようやくつながる。Bさんも浮かない返事である。「僕は今でも欲しいんだけど、うちのカミサンがねえ・・・・」今度は「刑事コロンボ」パターンであった。
残るCさんに電話、「え?そうなの。遅かった!新品でもう、買っちゃったのよね」不安は的中する。
重ねて貼られていた3枚の「商談中」のピンクの札が無くなると、立派な身なりのスタンドも妙に元気がなくなったように見える。いかん、私たちが元気を無くしては・・・・・
しばらくして、若いアーティスト風の長髪青年がスタンドのサイズを聞いてくる。部屋に置けるか、果たして入り口から入るかどうか心配とのこと。「置けないためキャンセル」ではシャレにもなるまい。配送前に現場を検分。そのままの搬入は難しく、分解しての搬入となった。設置場所は瀟洒なマンションの六畳の一室である。1時間後、遂にそのイタリー製ライトスタンドは畳に鎮座した。タタミとイタリアン。悪くないコラボレーション(今風に言えば)。
「もう、この部屋から他の部屋には簡単に移動できませんけどいいですか?」
「ぜーんぜんOKですよ。ココがいいに決まってます」
Dさんが出してくれた麦茶がゆっくりと体にしみわたっていった。