モノ語りヒト語り

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スローなお店

桜満開の日、54年間続いた本屋さんが店を閉めた。半世紀という期間は、店を続けてきたご夫婦の人生そのものだったと思う。私にとっては、本を注文に行きがてら、世間話をする場が失われていく悲しさがある。

人手が足りなくなったのが大きなキッカケだったとのことだが、それだけではないようだ。近くの図書館の本を受注していたのが、ある日発注が途絶えた。事情が分からず、問い合わせたところ「小さなホンヤさんは納品に日数がかかるが、大手の書店だと数日で届く。その方が便利だから・・・」とのこと。だって、あっちは取り次ぎのスタッフだけで何人もいるのよ、かなうわけ無いじゃないの、とホンヤのおばさんはつぶやく。図書館でさえスピード本位で、自分たち地域の呼吸を感じ取ることが出来なくなってきている。

20100427

ホンヤさんとかヤオヤさんとか、「さん」付けで呼べるお店が急速に消えていく。「さん」付けで呼ぶ店には会話があった。この本屋さんも子供連れの家族が立ち寄っては、会話が弾む場であった。

どこへ行っても同じ大手のチェイン店が軒を並べ、街が均質化していく。ヤオヤ、サカナヤがスーパーに、街のメシヤはファミレスに、カナモノヤはホームセンターに呑み込まれ、会話のキャッチボールを楽しむことができるお買い物は、数少なくなっていく。

数秒の時間を節約できることを売りにするコンビニのCM(レジまで何秒、精算で何秒と読み上げ、働く女性の味方です、と訴える)が受ける時代である。

マクドナルドのドライブスルーで支払いと商品受け渡しを分けることで、何秒か早くなって売上げがアップした、というのが記事になるのだ。受け渡しの時に話をするなど、もってのほか、ということである。会話が無くても買い物は出来るが、「会話をしない買い物」が普通になっていくのが怖い。どこで買っても本の値段は変わらないが、大手の書店と街中にあるホンヤさんでの買い物の違いはそこにある。

私たちはスローな時間を「ゆとり」として楽しめるお店として残っていきたいと、考えている。店が大きくならなくていいと、半分負け惜しみながら自分を納得させることもできるしね。

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