帰ってきた指輪
古物商は「古物法」という法律にのっとって商売をしなければならない。未成年者から買い取る場合は、保護者の了解を得ているとの証明が必要となる。だが、売却する場合の法律での規制はない。だからと言って、良いというわけでもない。
貴金属カウンターに小学生高学年と思われる可愛い少女があらわれたのは、強い日差しも和らいだ閉店間際の夕方だった。しばらくショーケースを見渡すと、アクアマリンのリングを指差し「それ、見せてください」と大人びた口調でスタッフに頼んだ。事前に品定めをしていた風である。ジュエリートレイに置かれたリングを手にとって見るものの、勿論指にはつけない。それは12番のサイズで少女の指には少し大きすぎるものであった。「これ、下さい」一瞬躊躇するスタッフ。5月9日、母の日のことだ。「お母さんへのプレゼントなの?」軽く首をかしげたまま答えない。アップリケのついたピンクの財布からピッタリ8,400円を差し出した。
1時間後、彼女の母親から電話があった。「うちの娘がそちらから、母の日のプレゼントとして、指輪を買ったらしいんですよ。こんな高いものを貰えないので、お返ししてもいいですか」「もちろん、構いませんよ」「自分の貯めた小遣いで買ったらしいんですよ」「でも本当にお母さん想いなんですね」「返すって言ったら、お母さんなんか大キライって大泣きしてるんです」「かわいそうなことをしてしまったなあ、お嬢さんはお母さんが大好きなんですね」(注、当店は原則として返品は承っていない)
ビッグなプレゼントでお母さんをビックリさせようと思っていたに違いないお嬢さん、お役に立てずごめんなさい。お母さんにあなたの気持ちは十分伝わったと思います。今度はもっと大きい、きれいな宝石の指輪を用意しておくので、10年後にはぜひ来て下さいね。お母さんは「喜んで」びっくりしてくれると思いますから。スタッフ一同