モノ語りヒト語り

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病は医者、歌は公家

詰められた書類はダンボール3箱、重量で30キロくらい。過去3年分の総勘定元帳や領収書綴りとなると膨大な量である。当店の狭い事務所のテーブルに積み上げられた書類を囲んで4人が座る。一枚一枚めくって、何かしら問題がありそうなところであろうか、そのページに無言でポストイットを貼っていく人がいて、その枚数が増えるたびに心穏やかでない3人が見守る。税務署調査官、税理士、経理担当、そして私の4人である。

当社に税務調査が入った。いわゆるマルサ(査察官が脱税の立証のために入る強制調査)ではない。だから、ソファーを破って中を調べられたり、電気ポットを分解されたり、畳をひっくり返されたり、観葉植物の土の中を調べられたりした訳ではない。当社の税理士と担当税務署の法人課税第四部門統括国税調査官が事前に日程の打ち合わせを済ませた上での調査である。

「この2,000円の会費、領収書は?」「はい、これです」「これ1枚だけですか?帳簿には、2,000円の支出が2回記載されてますが・・・」

オークションに参加する際の会費が2,000円である。担当者は売上明細書と会費領収書を会計に手渡すのだが、領収書を受け取らないまま、いつものように会費を記帳し、後日領収書を受け取った際にまた、記帳したというわけである。

朝10時より夕方5時まで、調査官の書類をめくる手元を眺めながら、時たま天候やら商売の話で場を和ませる。だが、「敵」もサルモノである。あの山のようなファイルから、二重記載を見つけたのだ。2,000円というコマイ支払いすら見逃さないプロ中のプロである。

当社は勿論、脱税も節税も無縁だ。節税するべき元がなければ詮なきことである。従って、一日の税務調査で指摘されたのは上記の二重記載と社員の配偶者控除申請書の不備だけであった。であるが、税務調査に一日立ち会うのは疲れるものである。おかげで、終わった日の夜は美味しいビールを飲むことができた。

あ、法人課税第四部門統括国税調査官殿に聞き忘れたことがあった。 「大王製紙のカジノ背任とか、オリンパスの損失隠しとか、デカイ問題は税務調査でも見つからなかったんですか?」

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