モノ語りヒト語り

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紺屋の白袴

店の漆器やお客様に依頼された漆器の金継ぎを新潟の「Oさん」に依頼している。仕上がりがとても丁寧で、評判も良い。

実は、私も金継ぎを勉強して自分の食器を何点か繕っている。田舎育ちのせいか、めっぽう漆には強く、素手で漆を扱っても全くかぶれない。だが、仕上がりは自慢できるものではない。それでも物好きなお客様はいるわけで、「いいのよ、どうなっても文句言わないから、やってよ・・・」と言われれば「はい」と答えてしまう気の弱さ。出来上がった後は後悔の嵐。

という訳で、今は金継ぎを頼まれれば「はい、お任せ下さい」と明るく答えることができるのだ。

その「Oさん」が東京でグループ展に作品を出展したとのことで、仕事帰りに青山の会場に伺った。 陶器の外面に漆を塗った花器で、一瞬「なにもの?」と思わせる質感のあるユニークな作品であった。 他に、手作りの漆器があり、珍しい「カレー用スプーン」を購入した。

こうなったら、夕食はカレーしか無い。 カレーを前にまず持ってみる。そのスプーンはすこぶる手になじむ。それに軽い。そして、口当たりが自然でやさしい。金属のスプーンとは全く異なる柔らかなお付き合いができる。 カレーの器も漆ならもっといいに違いない。我が家にカレーに適した漆器はない。考えてみれば日常的に漆器を使うことが少ない。正月を除けば箸、汁椀くらいであろうか。いろんな漆器を店で扱っていながら、まるで紺屋の白袴である。 今度は我が家のカレー皿も漆器にしよう。

紺屋の白袴

翌日は休業日、六本木ヒルズへ歌川国芳展を観に行った。朝一番に着いたが大賑わいで、所要2時間。今なら商業グラフィックデザイナーともいうべき自由闊達な表現に驚き入る。

ヒルズ内のレストランで洒落た昼食をとることは庶民には難しい。値段がとってもお洒落なのだ。ヒルズを出て、六本木の裏通りで見つけた鶏と卵の店に入る。なにせ親子丼が900円である。席について驚いたのが、箸入れにあった漆のカレー用スプーンである。こ、これ昨日使ったばかりだ。出された親子丼は漆の平鉢に盛られている。こうなったら、漆スプーンで食べるしか無い。いける!漆も丼もうまい。(店は「鶏匠たけはし」。卵の黄身は濃いオレンジ色で、鶏も濃縮した味でナカナカであった。黒七味、山椒、柚七味も香り高い。)

木と漆は古代から私たち日本人の生活に切っても切れないものであった。扱いが難しいと誤解されていて、若い人には敬遠されがちであるが、私達のような古い人からも縁遠くなっているのかもしれない。

「もっと漆との付き合いを広げていくことにしよう」と決意した2日間であった。

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