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「振り込め詐欺」の犯人は?

クリストフルの大きな置物のお買取りで一度お伺いしたお客様から、再度お買い取りの依頼があった。依頼主は車椅子でハワイ旅行を楽しむという、お元気で品のある女性である。

今回は貴金属とのことで、専門スタッフと収納のケースやグラム量りなどを用意して伺った。部屋の中央のダイニングテーブルの上に、鑑定書、ネックレス、リング、時計などが整理して並べてある。置ききれないものがサイドテーブルに。大きなダイヤのリング、ショーメのダイヤを散りばめた時計など、ひとつで外車一台分の価格のものもあり、手持ちの資金ではお支払い額がショートするのはすぐに推測がつく。

20130517

そっと席をたちドア近くで経理担当に電話。

「すぐにお金を用意して振り込みの準備をしておいてほしい」
「え?聞こえない、何?」
「今、大きな声で言えないんだよ、ふ・り・こ・み!」と電話の口を手で押さえて話す。「え?なんで?いくら?」

なんとか手配を終えて安心して席へ戻ると、店から電話。経理担当Aから問い合わせがあり「今、お金を振り込めという話があったが、どうも本人とは声が違う。振り込め詐欺じゃないか。ホントの話なの?」と、心配しているという。だから、この振り込みの件は店を通して連絡してくれとのことである。

これって、私が振り込め詐欺の犯人と間違われているが、その濡れ衣を晴らすのも手間なので、とりあえず疑われないよう直接担当に電話をするな、ということではないか。

いささか腹もたつが、経理担当のAが5年ほど前に「オレオレ詐欺」に引っかかりそうになったことを思い出し、私の電話をそう疑ってかかるのは正しい対処に違いないと納得したのだった。

〜 そう、あの日のことは今でもはっきり覚えている 〜

その未遂事件というのは、Aの娘が出勤したあとの9時ころ、
「お母さん、子供をはねてしまった、どうしよう」
という娘のはげしい泣き声の電話(固定)を受けたことから始まる。

一瞬、娘とは声が違うと思ったが「泣いているから変なのだ」と思い込んだらしい。
直後、弁護士と名乗る男性が電話を代わる。

「お嬢さんが携帯を見ながら車を運転して、○○小学校(すぐ近くに実在)の生徒を車ではねた。今お嬢さんは○○警察署(近くに実在)にいます」
「小学生は大丈夫なのですか」
「今、重体で病院にいます。慰謝料200万円を今すぐ支払えば、相手方は示談にすると言っている。
お金を支払えば、警察もお嬢様を釈放するといっているがどうしますか」
「今すぐ○○警察署に行きます」
「これから品川警察署に移送されるので、○○警察に来てもダメ」
「じゃ、品川警察署に行きます」
「それもダメ。品川の分かりにくい所なので、とりあえずお金を振り込んで下さい」
「どこに振り込めばいいのですか」
「千葉銀行○○支店です」
「でも、そんなお金無いですよ」
「逮捕されてもいいのですか」
「今、手持ちはないので、こちらから電話します」
「いや、このままでいいから電話切らないで下さい」

と引き延ばされていると、当の事故を起こした筈の「お嬢様」からAの携帯へ電話。

「携帯忘れたけどある?何びっくりしてるの?」

ゆっくり考えればおかしい会話が満載である。

状況的にありうる人身事故そのものを信じてしまうと、会話中に疑問を感じるものの、事故の深刻さに深く考えないで相手の話に乗っていくのである。

家を出てから30分もたたないのになぜ現場に弁護士がいるのか?
事故直後で被害者が病院にいるのに慰謝料の請求?
近くの警察からなぜ品川に移送されるのか?
警察署が分かりにくい場所にあるから親は行かないほうがいい?
なぜ「とりあえず」お金振り込めなのか?
この近くの事故なのに何故千葉銀行に振り込みなのか?
お金を払うと逮捕されない?

いくつもの疑問を感じながら、「娘の将来はどうなる」と頭がマッシロになり、相手のペースに完全にはまってしまったという貴重な体験をした当事者なのである。

〜 場面は変わってふたたび買取現場へ 〜

1時間半の査定終了。というわけで経理に電話するのは避けて、店へ電話。

「振り込め詐欺」の犯人との誤解は無事解けたものの、今度は振り込みの際、「振り込め詐欺」被害者扱いをされる。銀行の椅子のあるカウンターに呼び出され、まずは免許証などで本人確認、更に振り込みの内容と振込先の確認のために質問が浴びせられる。その上、一定額以上の振り込みには「登記簿謄本」が必要と、最後のカウンターパンチが見舞う。フツウ、登記簿謄本は持ち歩きませんが・・・・・

この詐欺は減ることがなく、呼び方は「オレオレ詐欺」から「振り込め詐欺」になり、今度は「母さん助けて詐欺」と変えて防犯の呼びかけをするようである。

(名称を変えるだけでダマされる人が減るのだろうか。「オレオレ詐欺」という呼び方には捨てがたい分かりやすさがあると思うが・・・・)

迷惑なことは、お金を下ろす自由も振り込む自由も、いつのまにか厳しく制限されてきていることである。

住みにくい世の中になったものである。

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