天は二物を与え給う パート2
「ネコトピア 猟奇的な少女と100匹のネコ」(ローラン作)を読みはじめた。フランスでも賛否両論うずまいたという怪奇小説である。この本はキアイを入れて「一挙に読み切る覚悟と時間」がある人にお薦めしたい。が、猫好きな人の場合は気軽にはお薦めできない。
10歳の少女アスカが、次から次と100匹の猫に古今東西の有名人の名前をつけて、ありとあらゆる方法でヤッツケながら話が進んでいくのだから、10ページもいかないうちにダウンしてしまう繊細な読者も多いに違いない。という私も、一旦ノックアウトされ中断、毎晩酒の力を借りて読破したという軟弱者である。だが、ゴールしてみると、なかなか味わい深い小説であることが分かる。
「皇帝」と「官僚」と「民」のもつれあうドラマが、一人の少女と100匹の猫を軸に描かれているのだ。アイロニーの効いた現代風刺小説である。
元サッカー日本代表監督の岡ちゃんが「日本は何かモノが言えなくなっている雰囲気がある」と話していたように、戦後から続いていた日本の明るかった空気が静かに変質してきている様な気がする。そんなどんよりとした空気を見透かしているような本である。いつの間にか「お・も・て・な・し」で自己満足させられて「ろ・く・で・な・し」になってはいないか。渦中の時は「誰もわからない」し「わかっていても言わない」し「分からないように仕向けられていく」のであろう。小説では人々の価値観の転換が一挙に行われるのだが、現実の世の中ではゆっくりと変質していくに違いない。小説より現実のほうがもっとコワイのである。「ぶっとんでいる」話にもかかわらず妙なリアリティがある小説でありました。
で、この度肝を抜く小説を翻訳した橋本たみえさん、「くらしのくらの人気者」と言われた元スタッフである。ドイツ文学を専攻した彼女がフランス語の翻訳者としてデビューするとは晴天のヘキレキであった。聞くところによると、フランスのお菓子好きが高じて、フランス語が堪能になったとのこと。
ハラワタをチギッたようなエスプリが段々馴染んでくるのは、作者の力は勿論のこと、翻訳者の、軽快な言い回しのなかでドギツイワードを連射していくインテリジェンスの混在した文章力だ。特に主人公のアスカのセリフは翻訳とは思えないほど、自然でいまどきな女の子の言い回しで笑ってしまいますよ。
「天は二物を与え給わず」は、きっと才能に恵まれなかった人が自分を励ますのにつぶやいたのではないかと、とつくづく思うこの頃であります。
猫好き派であれ、無関心派であれ、最近刺激が足りないなぁと思われている方、是非ご一読くださいませ。