モノ語りヒト語り

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因果な商売・リサイクルで男の心意気を感じたこと

昨日、「20年続いたフランス料理のレストランを閉めることになり、店の物を全部買い取ってほしい」との依頼があった。11時からのオープンなので、それまでに終了するというタイムリミットがある。10時にお伺いすると店長ともう一人のスタッフが開店の準備をしている。

ウエイティングルームがある大きなレストランでテーブルだけで15台、椅子は50脚以上が並ぶ大きいスペースである。奥の壁際には大型のワインセラーが3台。中には勿論ワインが満載である。レストランの壁にはアンティークのリトグラフやスペイン製と思われる銅のレリーフが飾られ、アンティークのバッフェやサイドボード、キャビネットとともに質感のある雰囲気が伝わってくる。中央にはガラスのモニュメントが飾られたオープンシェルフが据えられている。家具だけの査定であれば、そう時間もかからないのだが、その家具の上には、ランプや絵皿、銅のプレート、花生けなどが飾られ、中には隙間なくワイングラス、ボトル、カップ&ソーサーなどがはいっているのだ。

「とにかくここにあるもの全部です、厨房にあるフリーザーも道具も全部査定して下さい」思わず時計を見る。あと50分。まず、大きな家具をチェック。ほぼディスプレイ用として使っているので、状態はとても良い。レストランからウエイティングルームへ抜けると大きな革張りのソファーセットが奥に鎮座し、周りにもビロード地の椅子が置かれている。キャビネットの上にはシャンパンのキャップとワイヤで作られたミニュチュアの椅子が100点ほど並べられていて、待っている間も飽きさせない工夫がされている。

家具の査定を終えてから小物の査定に入る。それぞれのブランドを確かめていくのは勿論、チップなどの難がないかをチェックしていかなければならない。一人が手袋をつけ検品、アイテム名と数量を記入、一人がおよそのサイズを計測し写真に収める。作家物と思わる品物のほかに、ブランドで言えば香蘭社、柿右衛門、玉川堂、バカラなどがさり気なくディスプレイされている。

最後はカウンター(厨房)の中へ入り、製氷機、コールドテーブル、シンクなどのチェックである。カウンター背面にある膨大な数のワイングラスを数える余裕はもう無く、写真をとって終了。オープン10分前であった。

終了の挨拶をするために振り向くと、店長がクロスを持って店内に並べられている花生けやモニュメントを拭いている。もうすぐこれらの品々に目をやってくれる人がいなくなることが分かっているのに、である。単なる習慣かも知れない。でも、開店前にテーブルのみならずこれらのディスプレイの品を綺麗にしていくスタッフがいる。このお店のお客様に対する誠実な迎え方を見たような気がした。道理で、全てのものが汚れ一つ無いはずである。白い手袋が一向に汚れないというのは、なかなか無いことだ。

こういう店こそ続いて欲しいものだが、詮無きことである。

まだ、しばらくはオープンしていると聞いていたので、できたらランチにでも来てみたいね、と外にあるランチメニューを見る。それはしばし沈黙するしかないプライスであった。

リサイクルは因果な商売である。

「今度、海外転勤なの」と満面の笑顔で私達を迎えてくれて、残された家具や食器を買取ることばかりではない。お買い取りの時にお客様と一緒に喜ぶことができないまま、仕事を進めなければならないこともあるのである。

追記

いくら忙しいとはいえ、「くらしのくら」のお店にある品物も毎日拭いていこうよ!と話をしたことは言うまでもない。

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