はっぱふみふみ
会社のディナーイベントで久しぶりにバスと電車にのった。深沢不動からバスで駒沢大学前。そこから田園都市線、東京メトロ銀座線、新交通ゆりかもめで竹芝まで。
車内を見渡して驚いた。電車で携帯を覗き込む人たちの多さにではない。車内の広告にポツンポツンと空き枠があり、まるで「田舎のシャッター街」化していることに驚いたのだ。広告代理店の知人から「吊り広告はいずれ無くなりますよ」と聞いてはいたがこれほどまでとは!
昔は週刊誌の扇情的なタイトルの吊り広告を眺めて、いろいろな情報を手に入れることができた。今は派手な見出しの週刊誌広告はない。無理もない、車内に座っている人はほとんどが下を見たままなのだから。
コンビニでよく手にするのが「週間現代」、ヌードグラビアが過激だと、飛行機の機内週刊誌から排除された問題誌である。伊集院静さんの「それがどうした 男の流儀」や宇野鴻一郎さんの官能小説なども面白いのだが、大橋巨泉さんのコラム「今週の遺言」(1994年~2016年)が秀逸だった。オーストラリアで悠々自適の生活を送っていたようだが、その幅広い経験から、コラムではニッポンへの警告を発していたように思う。
がんの進行が進み7月9日号で「最後の遺言」というタイトルで筆を断った。それから、10日もしない内に大橋巨泉さんは旅立った。そのコラムが本当の遺言になってしまった。享年82。(「今週の遺言」の連載終了については一部のテレビで報じられたが、その内容に触れたテレビ局は無かったようである)
どういうわけか、その7月9日号だけを買いそびれてしまったので、ネットから「最後の遺言」の一部を引用する。
「書きたい事や言いたい事は山ほどあるのだが、許して下さい。しかしこのままでは死んでも死にきれないので、最後の遺言として一つだけは書いておきたい。・・・安倍晋三の野望は恐ろしいものです。選挙民をナメている安倍晋三に一泡吹かせて下さい。7月の参院選挙、野党に投票して下さい。最後のお願いです。」
最後の遺言に応えることが出来ない結果で参議院選挙は終わった。
「巨泉」が俳号であるように、タレント=才能を存分に発揮した「マルチタレント」として活躍した。ジャズはもちろん、野球、競馬、麻雀、ゴルフ、酒、エッチな話まで何ひとつ手を抜かず、多数に媚びず、直言のコメントができる人だった。
永六輔さんが「ラジオの主」だとすれば、大橋巨泉さんは「テレビの主」と言える。
「みじかびの きゃぷりきとれば すぎちょびれ すぎかきすらの はっぱふみふみ」
(昭和44年・1969年 パイロット万年筆のCMより)
和歌のような韻をふむ、よくわからないこの台詞。観ているうちに、なんかわかってしまう錯覚を与えるこのCMは彼のアドリブだったらしい。まさにタレントである。
軍国少年の一人だった大橋巨泉さんが「11PM」や「クイズダービー」などテレビ界の寵児になった人生は、日本の戦後から昭和の高度成長時代への流れそのものであった。
合掌。