オールドバカラは蘇る 頭部外科手術はいかに
私はバカラの「ナンシー」というブランドのデキャンタであります。美しい格子模様と 反射する繊細な光が自慢です。今や日本では時計のロレックス、ブランドバッグのエルメスといったところでしょうか。エ、ヘン!!
ま、簡単に自己紹介しておきます。出身地はフランスのナンシー市(エミール・ガレ、 ドーム兄弟たちの活躍した街)にあるバカラ村。およそ 250年前、当時の国王ルイ15世には大変お世話になったということです。それからイロイロあって・・・今に至ります。
<バカラの現在の刻印 1936年前には無い>
で、私はフランスで70年ほど、日本でおよそ20年の長い人生で初めて事故にあったのです。「くらしのくら」のご贔屓に見初められて嫁入りしたのですが、ある日、ご主人様が少し力を入れて蓋を取ろうとした時に取っ手が折れてしまったというわけです。
「折れた蓋を外してもらえないか。このデキャンタは気に入っているので、蓋が取れたら花生けにしてでも使いたい」と、私のご主人様はくらしのくらへ。
嬉しいですね。こんな不自由なカラダになっても私を使ってくれるというのですから!
外科手術前の姿
頭部アップ 骨折断面が痛々しい
私を預かった「くらしのくら」のスタッフはしきりに私を触りまくります。鍋でじっくり温浴されたり、「膨張率の差が問題だ」とか言って、首の部分を保冷剤で冷やし、そのあと60度くらいのお湯に浸されたり、洗剤をスキマから入れられたり、プライヤーで押したり引いたりされたり、こちらとしてはたまったものではありません。そのうち、諦めたのか、事務所においてあった運搬用のダンボール箱に戻されました。
その時、事務所の片隅にあった超音波洗浄機が私の運命を変えることになったとは誰も知りません。
<超音波洗浄機>
貴金属のリングやネックレスを洗浄液の入った器に入れて超音波でクリーニングする機械
「ダメモトでやってみるか」と私の首をその超音波洗浄機に突っ込んだのでございます。すると「なんということでしょう!」20秒ほどでポロッ!と音を立てて、元蓋の一部が落ちたのです。
え?
半日苦労を重ねてできなかったスタッフの目が点になるのを私は見逃しませんでした。「今までの苦労は何だったんだ」というつぶやきが聞こえてきます。
外科手術後の姿
今までビンテージワインのお世話をしてきましたが、余生は一輪挿しとして花とのお付き合いになりそうです!
感謝です。