モボ・モガご愛用の煙管(キセル)とお着物ですよ
着物のお買取りがあった。昔の「つづら」にヤマと入ったきものを一枚づつ取り出してみていく。着物として着るにはシミなどが多くてやや難しいが、古裂としてならオーケー!畳紙(たとうし)を開くたびに、目に見えないホコリが舞い上がる。手元に用意したマスク必須。
依頼主のおばあさんは腰を痛めて、もう着物は着ることができないという。確かに着物は重い上に面倒と、どんなに好きでも、遠ざかってしまう年齢というものがあるのだ。
しばらく、着物の査定を椅子に座って見守っていたが、急に思い出したようで、2階から紙袋に入った小物などを持ってくる。金盛りべっ甲の簪(かんざし)や櫛(くし)、象嵌の入った艶やかな櫛(くし)、笄(こうがい)さらには金で形作られた煙管(キセル)と豪華な品々の入った袋であった。
笄(こうがい)はさすがに虫食いにやられていたが、他のものは状態が実に良い。金の蒔絵が今のモノと比べると厚みがある。大きさもスケールが違う。イチョウと印籠(?)が揺れる粋な飾りの小振りのかんざし、真珠であしらたった櫛とこうがいの揃いなど14、5点。更に、なかでも、吸い口と、雁首に金細工のある煙管(キセル)やアール・デコ調の金工の煙管がモダンだ。
なにせ、今回「くらしのくら」に依頼してくれたおばあさまの「お祖母様やお祖父様」の持っておられたものである。明治43年の生まれだそうで、今生きていらっしゃれば103才である。恐らく大正時代のモボ、モガ(最先端のファッションを身にまとっていた若者世代でモダンボーイ、モダンガールの略)であった違いない。さぞかし、銀座あたりを闊歩したのであろう。今や、銀座でタバコを吸うのは相当勇気がいる時代だが、ロードサイドのカフェで、この煙管で煙草をくゆらしたりしたら、相当にカッコいいと思うのだが・・・。
つづらの中も同じく、タイムスリップしたようなアンティークのキモノ、帯の数々。
戦前と思われる友禅染めの訪問着、絽の黒留袖など、職人が技を競った時代が忍ばれる。
「それは大きなお茶会に連れていってもらったときに誂えたキモノ」、「それは母がよく着ていたわね」と情景が目に浮かんでいるようにポツポツと語る姿は、まさに「見送る」ことそのもの。
「もう、だいぶ古いから着られないものばかりよね」とおっしゃるお客様。
この時代のキモノは色も図案も素敵なので、洋服や小物に作り替えるなどして布としてまだまだ活躍できることをお伝えすると、「あら!そうなの?」と少しだけホッとされた様子。畳紙(たとうし)を開けるたびに見を乗り出すようにしてご覧になり、独り語りは続く。
ヒトもモノも「見送られ」て記憶に残る。