シャネルのNo.5の香り
とある夏の暑い昼下がり上品な年配のお客様が店にいらした。おしゃれな帽子とお洋服、品のいいメイクをされたそのお客様は度々来店してくださる。
「シャネル頂戴!」
私はその時『シャネル』はバッグと思い込み、ブランドバッグのコーナーへ案内しようとすると『No.5(の香水)があると聞いて飛んで来たのよ〜』とおっしゃる。
「No.19にしたら孫がおばあちゃんの香りじゃない、元に戻して欲しいというのよ」とにっこりとお話し始めた。
「昔からNo.5しかつけていなかったのに、いつもの香水が切れたのでお友達がお土産にくれたNo.19をつけてみたの。どうやら日本人はNo.19が合うからと海外ではお土産に勧められるらしいのよ。でも遊びに来た孫達が「いつものおばあちゃんの香りではない」と次々に言うものだから、やっぱりNo.5に戻そうかと思って」
高校生というお孫さんが、小さいときから親しんだ香りを覚えているというのは何ともとロマンチックな話である。しかも男のお孫さん達に特に不評という。おそらく「おばあちゃんっ子」のお孫さんの批評はおばあさまにとって、とても大事なのだ。
小さな2本の香水瓶を手にして『私はくらしのくらが出来た当時からファンなのよ』と言われて、ちょっと嬉しい昼下がりでした。